最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)521号 判決 1956年5月08日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人花淵育三の上告理由第一点について。
賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借物の転貸をした場合であつても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情あるときは、賃貸人は民法六一二条二項による解除権を行使し得ないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(オ)第一四〇号同二八年九月二五日第二小法廷判決、集七巻九号九七九頁。昭和二八年(オ)第一一四六号同三〇年九月二二日第一小法廷判決、集九巻一〇号一二九四頁各参照)。そして原審の認定した一切の事実関係を綜合すれば、被上告人の本件無断転貸は賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があると解するのが相当であつて、原判決が右解除を無効と判断したのは正当である。論旨引用の判例は本件と事実関係を異にし、本件に適切でない。論旨は理由がない。
同第二点について。
被上告人が本件転貸借において、所論組合から毎月三千円の転貸料を得ていたという事実は、原審の認めなかつたところであり、原審挙示の証拠と対照すれば、未だ必ずしも所論の各証言および上告人本人訊問の結果を採つて、被上告人が右転貸料を得ていた事実を認定しなければならぬものではない。そして原審認定の一切の事実関係を綜合すれば、本件無断転貸については、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があり、右無断転貸を理由とする本件解除は無効と解し得ることは前記説明のとおりであるから、本論旨も理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)